ひふみんアイ

最近将棋ファン以外の方にも人気な棋士加藤一二三九段、通称ひふみんだ。その加藤先生には「ひふみんアイ」と呼ばれる行動がある。プロ棋士は頭の中に将棋盤が入っている。だからこそアマチュアにはできないような深い読みが可能なので、対戦中にその盤を頭の中で反対にすれば相手の側から見た局面が見える。しかし加藤先生は対局中に相手が離席すると、実際に相手の側に立ち盤面を見つめる事がある。その行動が「ひふみんアイ」なのだ。「ひふみんアイ」で相手の側に立つ事で思いもよらなかった風景が見え、妙手の発見につながると言う。(もっとも加藤先生曰く、妙手巧手が見つかるのは100局に1局くらいらしい)

 私も相手の側に立つ事で思いもよらない風景が見えるという経験をついこの間、した。

友人との小旅行の道中の事だった。最近読んだ本の話になって、私はエディージョーンズの本について話した。エディージョーンズはその本の中で、指導者に最も必要な資質として観察力をあげていた。部下の表情、行動、服装から心理状態を把握して部下に対してどのようにアプローチしていくか考えなくてはならないというのだ。常々、観察力を磨く事を意識していた私からしてみれば「我が意を得たり」という思いだった。エディージョーンズが選手をよく観察している事を、私としては素晴らしいエピソードとして話したのだが、友人の反応は私にとっては意外なものでただ一言「怖っ。」と言ったのだった。

 なぜそう思うのかを問いただしてみると、一々上司から監視されているなんて嫌だと言う。見る側に立つだけで見られる側に立っていなかった私を思わず見られる側に立たせた「ひふみんアイ」体験だった。